ミュシャ展 

2017年4月22日

「ミュシャ展」が六本木・国立新美術館にて開催されていたので、見に行ってきた。
「スラヴ叙事詩」の全20点がチェコ国外で展示される初めての展覧会である。

   
大変混みあう会場内   イヴァンチツェの兄弟団学校

国立新美術館での展示は、大きく5つの展示に分かれている。入り口からすぐに現れるのが
「スラヴ叙事詩」のゾーン。全20作品をすべて鑑賞できる素晴らしい展示会場だ。
「スラヴ叙事詩」が展示されている3つ目の部屋の5作品が飾られているゾーンは、撮影が許可されていた。
撮影許可された展示作品は「スラヴ民族の賛歌」、「ロシアの農奴制廃止」、「スラヴ菩提樹の下で
おこなわれる オムラジナ会の誓い」、「聖アトス山」、「イヴァンチツェの兄弟団学校」である。

   
ロシアの農奴制廃止  ロシアの農奴制廃止 

「スラブ叙事詩」全20点に一つずつ丁寧な解説がついている音声ガイドを借りて、聞いた。
本作≪ロシアの農奴解放の日≫は19世紀ロマノフ朝帝政ロシア時代、早急な近代化を
目指す同国が労働力確保のため、当時のロシア皇帝アレクサンドル2世が1861年2月に発布した
大改革政策のひとつ≪農奴解放令(農奴制解体の勅令)≫を、モスクワの赤の広場で告げる
ロシアの役人とその周囲に集まる(農奴であった)スラヴ民族の場面が描かれているものの、
その光景からは解放の歓喜や安堵は伝わってこない。むしろ画面中央に描かれた発令を
告げるロシア役人から(身分的対比を連想させるように)やや離れた位置で囲むように集う解放された
スラヴ民族らの当惑的な表情や異様な静けさすら漂う雰囲気からは、漠然とした将来への不安や
一抹の緊張を感じることができる。ここにその後のスラヴ民族に対するミュシャの歴史的悲観を
見出すことができるが、同時に、本作の背景として描かれる薄日に包まれるおぼろげな聖ワリシー寺院
にはスラヴ民族の未来に対する勝利の象徴も示されている
中世〜近現代に至るまで、スラヴ人の歴史は他民族からの侵略・被支配の歴史でもあった。
彼の祖国、チェコはたびたびゲルマン系民族に蹂躙されており、皮肉にも彼が亡くなったのも、
1939年のドイツによるチェコスロバキア占領がきっかけであるといわれる。

   
聖アトス山  聖アトス山 

多くの修道院が建てられたアトス山はギリシャ正教会にとって重要な場所であり、正教会のヴァチカンとも
言われている。ロシアからアスト山の聖母マリア教会にやってきた多くの巡礼者とその様子を描いている。
ミュシャは、このスラヴ叙事詩全編を通じて、スラヴ人の民族意識高揚だけでなく、戦争のむなしさ、
平和への希求を強く絵画の中で繰り返し表現している。

19世紀から20世紀にかけて活躍した、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家のひとり、アルフォンス・ミュシャ。
ミュシャはフランス語読みで、チェコ語での発音は「ムハ」という。オーストラリア領モラヴィア(現チェコ)に
1860年に生まれ、ウィーンやミュンヘンを経て、27歳でパリに渡って画を学ぶ。不遇の時代が続いたが、
34歳の時に大女優サラ・ベルナール主演の舞台「ジスモンダ」のポスターを手がけ、評判になった。

 
スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオムラジナ会の誓い 


民族主義的な組織である「オムラジナ」の集会の様子を描いた作品。19世紀末〜20世紀初頭、
外国支配の時代に活躍した若者たちの団体が、愛国的な誓いを立てる姿を描く。
画面上部中央で両手を広げるのがスラブ民族の自由を守護する女神スラビィア。
画面左下でハープを弾く少女はミュシャの娘ヤロスラヴァ、右側で横を向く少年は息子
イージー(ジリ)がモデルとなっている。
ミュシャは実際に人々に衣装を着せて写真を撮り、それを元に作品を描くという手法を用いている。

 
 スラヴ叙事詩「スラヴ民族の賛歌 

『スラヴ民族の賛歌』は一連のスラヴ叙事詩作品の中で描かれてきたスラヴ民族の歴史の集大成的な作品。
スラヴ民族の「神話の時代」、多くの血が流れた「フス戦争」、スラヴ民族にとっての「敵対勢力」、
自由と平和のために「連帯するスラヴ人たち」といった象徴的イメージが配されている。
中央で大きく両手を広げている青年はオーストリア=ハンガリー帝国から独立したチェコ
(当時はチェコスロヴァキア)の自由と独立を表し、その背後にはキリストの姿が描かれている。

   
   

   
   草間彌生「木に登った水玉」

国立新美術館では、草間彌生も開かれていて、美術館の入り口近辺の樹木には、
一見して草間の作と分かる赤い水玉模様が巻き付けられていた。

   
行列が続く国立新美術館のチケット売り場   こいのぼり

ミュシャ展と草間彌生展と同時に開催されている国立新美術館は大変にぎわっていて、
美術館を出てみると、チケット売り場では行列ができていた。近くの公園では、こいのぼりが飾られていた。